ウィリアム・モリスと日本

William Morris and Japan
小野二郎<br>「ウィリアム・モリス研究」

小野二郎
「ウィリアム・モリス研究」
1986、晶文社

第二次世界大戦前

小野二郎著作集『ウィリアム・モリス研究』によると、大槻憲二氏は1921年(大正10)の著書『モリスの社会主義』を出発点とし、1924年『ウィリアム・モリスの図案集』、『ウィリアム・モリスの「赤い家」』など1927年(昭和2)にかけ8冊、思想家、デザイナー、詩人としてのモリスの多分野における研究書を出版しました。これらの著書は過去のどのモリス研究よりも深く、総合的なモリス像を日本に紹介したものです。

日本初のウィリアム・モリス総合展覧会(1989)

「ウィリアム・モリス展」(1989年)および図録

[左]「ウィリアム・モリス展」(1989年)での壁紙展示風景 / [右]「ウィリアム・モリス展」(1989年)の図録

第二次世界大戦後1975年頃からモリスの紹介論文が『装飾芸術』誌などに度々発表されていますが、なかでも小野二郎著『ウィリアム・モリス研究』(1986年)は大槻憲二著書以来の本格的な研究書とされています。今日のように多数の著書が出版されるようになるきっかけは、1989年に開催された「ウィリアム・モリス展 」が契機となったものです。モリスのデザイナーとしての展覧会は戦前に小規模なものが丸善書店で開催されたと言われていますが、1989年に開催されたものが総合展としては代表的なもので、日本では戦後初めてのものでした。

同展は、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館の所蔵品を中心にステンドグラス・デザイン、壁紙、織物、家具、本などデザイナーとしてのモリスの全分野を、仲間たちの作品も含め117点によって構成されたものでした。開催地は東京(伊勢丹美術館)、大阪(大丸ミュージアム梅田)の2会場であり、展覧会の組織運営はブレーントラスト(東京)が行いました。戦後初めての展覧会でしたが、大きな評判を得て大成功を収めました。

継続的な展覧会開催によるモリスの浸透

ウィリアム・モリス展図録類

[左] 「モダン・デザインの父 ウィリアム・モリス」展(1997)図録 / [右] 「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ」展(2004)図録

ウィリアム・モリス展図録類

[左] 「ウィリアム・モリス」展(2005〜2006)図録 / [右] 「モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ:イギリス・アメリカ」展(2008)図録

1997年には京都(京都国立近代美術館)、東京(東京国立近代美術館)、名古屋(愛知県美術館)で210点による「モダン・デザインの父 ウィリアム・モリス」展が開催され、デザイナーとしてのモリスの名声はますます高まります。

その後、ブレーントラストにより2004年「ウィリアム・モリスとアーツ&クラフツ 」展が岐阜(岐阜県美術館)、東京(大丸ミュージアム東京)、大阪(大丸ミュージアム梅田)で2005年から2006年にかけて「ウィリアム・モリス 」展が北海道(北網圏北見文化センター)、東京(松下電工〈現:パナソニック〉汐留ミュージアム)、愛知(松坂屋美術館)、鹿児島(長島美術館)、群馬(群馬県立館林美術館)、京都(美術館「えき」京都)、広島(呉市立美術館)、愛媛(八幡浜市民ギャラリー)、長野(軽井沢メルシャン美術館)の国内9館にて開催。2008年には「モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ:イギリス・アメリカ 」展が北海道(北海道立釧路芸術館)、埼玉(埼玉県立近代美術館)、東京(パナソニック汐留ミュージアム)、兵庫(西宮市大谷記念美術館)、岡山(倉敷市立美術館)、福島(郡山市美術館)と継続して全国各地で催され、モリスの名は日本各地でも不動のものとなりました。2017年より新たなモリス展 の巡回がはじまり、これらの一連の展覧会は一層のモリスの理解を深め、広めることに貢献することになったのです。

モリスのデザインを現代に甦らせる試み

1989年に開催されたウィリアム・モリス展の成功を契機に、モリスの図柄を現代の製品に甦らせるという構想がブレーントラストにより計画され、当初片倉工業、後に伊藤忠ファッションシステムと共同してファッション、家庭用品、文具などの分野でトータルな商品開発がされ、全国百貨店を中心に販売・展開されました。

契約終了に伴い、現在はブレーントラストで、主に美術館対象のミュージアム・グッズとしてウィリアム・モリスの展覧会とともに商品も継承されています。また、ブレーントラストではウィリアム・モリスの商標権も広範囲の分野に亘り登録取得して、デザイン図柄の写真とともに新商品を開発される事業者に提供しています。

モリス没後120年有余を経て、いきいきと輝いたデザインは「生活の日」として今でも綿々として息づいているといえましょう。

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